パナマ文書を告発したICIJとは何者なのか

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ICIJ

今回の史上最大のオフショアリークとなったパナマ文書を告発したのはICIJ と呼ばれる組織でした。まだまだ日本では馴染みのない名前ですが、今回の事件をきっかけに大きく世界に知られるようになりました。

では、ICIJ とはいったい何者なのか?その生い立ちや彼らの掲げる信念について知り、今回の問題の立役者の実像に迫ります。

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テレビ番組のプロデューサーによって生み出された

ICIJ とは国際調査報道ジャーナリスト連合の略でワシントンDCに本拠地を置く調査報道を専門とする非営利団体CPI のプロジェクトの一つです。このCPI はアメリカの調査報道の悲惨な状況やアメリカ政府の更に悲惨な状況に幻滅していたアメリカの名プロデューサーであるチャールズ・ルイス氏によって創設された。

彼は米ABCニュースや米CBSニュースのドキュメンタリー番組「60ミニッツ」(英題:60Minutes)の元プロデューサーで有名で、60ミニッツは1968年からスタートした40年を超える長寿番組でありニュース番組でありながら唯一年間視聴率でトップにたった実績のある人気ニュース番組だ。

彼はCPIの創設に際しては自らの自宅を担保に金を工面するほどの熱量の入れようで、1900年にThe Center for Public Integrity (CPI) が設立された。

CBS

プロデューサーとしてニュースと向き合ってきた彼だからこそ生み出された機関

CPI は「政界や財界などの権力に左右されず、権力者の汚職や怠慢を暴くこと」を使命とし、自らを「いかなる党派にも属することなく、擁護活動もしない」組織だと明言しており現在に至るまで寄付で運営がなされてきた。

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これまで権益にとらわれない立場から成果を挙げてきた

CPI は主に個人や慈善団体からの寄付で成り立っている。その寄付者には多くの博愛主義者とジャーナリズムにおける倫理卓越財団やマッカーサー財団などが名を連ね、1996年以降は企業や組合などの寄付などは受け付けていない。

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クリントン政権で多くの成果を挙げてきた

CPI が最初に挙げた戦果はクリントン政権時代の「アメリカの貿易官僚最前線」だった。これは過去15年間でホワイトハウスの貿易官僚の半分近くが引退後に海外企業のロビイストになっているとした報告書で、この報告書によりビル・クリントン大統領は「ホワイトハウスの貿易官僚は生涯に渡って外国のロビイングをしてはなってはならない」とする大統領命令を発令する原因の1つとなった。

その他にも暴力団組織の密輸、違法カルテル、中東との武器契約、2008年の金融危機に関する追求なども行ってきました。そんな中で2013年に開始されたプロジェクトが今回の世界規模での租税回避や資金洗浄などを暴いた「パナマ文書」である。

その発端はリベラル左派として知られるドイツの全国紙・南ドイツ新聞に匿名の人物よりもたらされた1150万点にも情報である。この匿名の人物は自らの命の危険が及ぶことから最後まで会うことを拒んだそうで、実際に彼がもたらした情報はこれまでのタックスヘイブンに関するものすべての情報を合わせても今回のパナマ文書の1/3に満たないというから、パナマ文書がどれだけ巨大なものだったかがうかがえる。

そこでICIJ にこの情報を持ち込み100を超える報道機関と400を超える記者で共同プロジェクトが立ち上げられた。日本からは朝日新聞と共同通信が参加している。

パナマ文書に関する詳細は別記事にてまとめているので見て欲しい。

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パナマ文書によって浮かび上がる1つの疑問

世界に大きな衝撃を与えたパナマ文書だが世界一の大富豪ビル・ゲイツ氏が「リストの中にアメリカ人の名前が殆どないなんて驚きだ。」と指摘するようにこの文書には極端にアメリカ人が少ないのだ。

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これにはアメリカの政治的な背景が大きく現れているとされる。アメリカはこれまでケイマンやアイルランドなどを始めとする租税回避地などによるタックスギャップ(予定した税収と現実に納付された税収の差異)は2006年の時点で4500億ドルにも及んでいた。アップルなども6000億円を納税しているとされるが預金の70%以上をアメリカ国外にあるというから実際には数兆円単位での租税回避をしていたとされる。だが、しかしこれはアップルに限ったことではなくグーグルやアマゾン、フェイスブック、そして日本の多くの大企業らも租税回避に取り組んできた。

アメリカはここ数年、これまでタックスヘイブンと呼ばれた国々に対して強い圧力をかけてきた。それは多くの米国企業がそれを利用しているからに他ならない。実際、アメリカはOECD の情報交換には一切応じないがそれらの国に対して強弁に情報開示を迫ったりしている。

アメリカはその情報や資金の多くが自らの手元から離れることを阻止するためにアメリカ自身を租税回避のための場所としはじめた。

租税回避地として名高いパナマやケイマン諸島だが、アメリカ企業が国外のタックスヘイブンで上げた利益を国内に引き上げる場合には連邦税を避けられないという事情がある。実際にアップルは預金の70%以上を国外に残したままだ。しかし、デラウェア州であれば州法をうまく利用して租税回避をすることが可能となるのだ。そして、高い機密性も魅力的だ。

それにより多くの州が数百億ドル規模の損失を被っているとしているがデラウェア州政府も法人の維持費だけで年間10億ドル以上の収益を得ているので未だ本格的に実態解明には至らないであろう。

しかし、アメリカ人の名前が全くなかったかといえばそれは間違いだ。ウォールストリートの大物ベンジャミン・ウェイや不動産王イゴーリ・オレニコフ、ハイアット・ホテルの遺産相続者の一人でもある、リーセル・シモンズの名前もある。しかも、彼女は現在の商務長官であるペニー・プリツカー氏の親族であり、オバマ政権中枢を巻き込むスキャンダルに発展する可能性すらある。

実際この疑惑についてICIJ は「アメリカ人の名前が少ないのは、デラウェ州やネバダ州などの国内で同等の租税回避ができるため、わざわざパナマを利用する必要がなかったからだ」としており近年租税回避地として急速に発展してきたアメリカの存在感の高まりをうかがわせる。

当然のことだが国内で同じことが出来るならほとんどの企業は国外のタックスヘイブンをわざわざ利用する必要はどこにもないのだ。しかも、これまでタックスヘイブンの巣窟とされてきた地域は世界の各国から急速に実態の解明をされつつある。アメリカ人や米国企業であればデラウェアを利用する方が利点が圧倒的に多いのだ。

実際、アメリカで設立される法人の約半分近くがデラウェアだ。2009年の金融気密度指数ランキングではスイスやルクセンブルグを抑えてアメリカが1位となりその理由の多くはデラウェアだとしている。2015年時点でもスイスや香港に及ばないものの3位につけている。

金融秘密度指数ランキング(2015)

1位:スイス
2位:香港
3位:アメリカ
4位:シンガポール
5位:ケイマン諸島
6位:ルクセンブルク
7位:レバノン
8位:ドイツ
9位:バーレーン
10位:アラブ首長国連邦
11位:マカオ
12位:日本

Source:Tax Justice Network

まさに租税回避者にとっては「夢の国」に他ならない。

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パナマ文書に米国企業と米国人が少ないもう一つの理由

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クレディ・スイスには2860億円もの罰金が課せられた

そして、このリストに米国企業と米国人が少ない理由はもう一つある。それは大富豪なら一度は恐れたことはあるアメリカ合衆国内歳入庁(通称IRS)の存在だ。アメリカではこのIRS の監視と罰則が厳しい。

もし、海外金融を利用した租税行為が脱税だと指摘されると罰金によるペナルティが最低1万ドル以上、計画的なものである場合だと禁錮刑に処される。

このように脱法行為に見えるようなリスクを冒してわざわざ海外でタックスヘイブンを利用し節税することには慎重にならざるを得ない。また、2010年に成立したFATCA により全てのアメリカ人は国外の金融機関の顧客口座の報告を義務化された。

その罰則も強烈で営業停止や巨額な罰金などが課せられ、実際2014年にはスイスの金融王手クレディ・スイスが脱法ほう助の罪で総額28億1500万ドル(約2860億円)にもなる罰金を支払わされた。(FATCAでは銀行が捜査に協力して顧客情報を提供すれば起訴を免れる制度があるが既に捜査されていたクレディ・スイスは対象外となった)

米国政府がこれほどまで海外金融を利用した租税回避を取り締まる理由には海外タックスヘイブンへの資産隠しやマネーロンダリング(資金洗浄)を防止する目的があり、実際今回のパナマ文書では世界の富豪や政治家らの他に様々な犯罪組織の資金洗浄が明るみになった。(参加した記者の中には現在も殺害予告や脅迫されている者もいる)

そして、この問題は何もアメリカだけでない。日本でも2013年にICIJ が行ったオフショアリークスで、ケイマン諸島だけで55兆円が流れ、租税回避額として日本が世界で2番目に多いことが明らかになっている。この問題は世界経済の安定化や犯罪防止の観点で非常に重要で国際的な問題なのだ。

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創設者なき後に混乱する組織と陰謀論

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CPI / ICIJ 創設者 チャールズ・ルイス

創設者であるルイスはCPI が40人の常勤記者と25カ国以上のネットワークを築き上げた2005年1月にCPI の執行役員を退任した。彼の退任は資金提供者であり博愛主義者の銀行家 ハーバード・サンドラーらを驚かせた。

創設者であるルイスが去ったCPI はその後に起こったスタッフによる盗作事件などにより 評価を著しく下げ、設立初期からのスタッフの多くが2005年の秋までに同組織を去った。

また、その後は財政的な危機などにも直面し2007年前半には40人以上いた常勤スタッフは25人にまで落ち込んだ。資金難の理由の多くは彼らが調査するプロジェクトが増えすぎたことや、プロジェクトの多くは金持ちなど経済的権力者を対象としたもので企業や組合から寄付を拒否してきたこともあり調査の規模に対して寄付が追いつかなくなったことなが挙げられる。

CPI はその後も予算を削減するためにスタッフなどの解雇や上級スタッフらの給与削減により組織の維持を目指してきた。

その後は著名投資家のジョージ・ソロス(ブッシュ政権への批判で知られる)やフォード財団、ロックフェラー・ブラザーズ・ファンドなどの資金提供などもあり現在では50人以上のスタッフによって運営されているが、それが今回のパナマ文書におけるアメリカ人の少なさに対する疑惑の原因にもなったと言える。

だが、政権中枢の人間やその他の大物でも発覚している人がいることからこれをロックフェラーや米政府の陰謀とするのはやはり現時点ではあまりに早計で飛躍しすぎだと言わざるをえない。

しかし、今回のパナマ文書により急速に発展しているアメリカの租税回避地の機密性の高さを目の当たりにしたお金持ちたちが小国の租税回避地から大国アメリカへ移っていくとは必須だと思われる。

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